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岡本亜美のオフィス  精神分析・心理療法・カウンセリング @東京都新宿区西新宿(初台)モバイル

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翻訳『ピグル』

『ピグル ある少女の精神分析的治療の記録』

ピグル ある少女の精神分析的治療の記録』
ドナルド・W・ウィニコット著、妙木浩之監訳
私も仲間たちと共に翻訳に参加させていただきました。
まだ開業していなかった頃の所属になっていてなんだか懐かしいです。

2021年、私のオフィスで3人の仲間と共に再びこれを読み始め、ピグルとウィニコットとも再会しました。
コロナ禍で換気、マスクを必要とする状況で1パラグラフずつ順番に音読し、1セッションの間、あるいは次のセッションまでの間に変化しつづける二人の関係をみんなで想像しながら読み進めています。
この治療はロンドンで行われており、もちろん日本とは天候も環境も言語も異なりますが、ウィニコットとピグルの約束の日に近い日程で私たちも集まって読んでいます。
たとえば7月7日、6回目のコンサルテーションを読んだあとの私の報告はこちら
こうやって毎回短い記録をとるようにしています。

精神分析において、記録をとる、というのはそれに関して一つのシンポジウムが組まれるほど多様な意味を含んでいます。私もこういう文章はさらさら書けますが、記録にはとても時間がかかります。セッションと同じで、患者さんと共にする作業なのでいろんな気持ちになってしまうからかもしれません。もちろんそれをある程度相対化するために「書く」ということをするわけで、ウィニコットもそのセッションでのピグルの様子についてあとから「これはこういう意味だろう」ということを付け加えています。

ウィニコットはセッション中もずっと書いていたようですね、ピグルの目から見ると。実際はわかりません。読んでいると、この分量ならあとからでも書けるかな、とか、書きながらこの観察は難しいのではないか、とか思いますが、ピグル、つまりガブリエルがそう感じていたということが何より大切なのでしょう。

翻訳は大変苦労しました。毎週だったかな、仕事後に上智大学の吉村聡さんの研究室に皆で集まり持ち寄った下訳を検討する作業を地道に行いました。一回の作業で進む分量はわずかなものでしが、この年齢の女の子の言動を想像するのはとても楽しい作業でした。ウィニコット先生(時折「ウィニコットさん」)とピグルの交流、ウィニコットとピグルの両親とのやりとりには治療者として驚かされたり、気づかされたりすることも多くありました。

『ピグル』はすでに以前翻訳が出ており、私はそれを最初の職場で読んだことがあるのですが、当時はその翻訳がどうかなんていうことはまるで考えずに興味深く読んでいました。実際、この『ピグル』、新訳が待ち望まれていたとはいえ、私たちは翻訳の過程でそれを参照させていただくことも多くありました。他人の記録をしかも母国語ではないものを日本語にするのは
大変な困難を伴います。ましてやウィニコットはレトリックの達人でもあります。

でも今思えば翻訳期間中に色々あったどんな出来事も楽しかったです。著者としてのウィニコットと治療者としてのウィニコットに同一化し、「ピグル」と呼ばれた少女、ガブリエルの成長を共にできた日々は今も私の大切な思い出です。

精神分析的臨床を積み重ねてきた今、ウィニコットの書物はフロイトと同じくらいよんできました。なので当時よりは随分ウィニコットと近しくなれたかなと思います。『ピグル』を読むたびにそんな気がしてしまいます。その『ピグル』に関連したことを以前、ブログに書いたのであげておきます。
これからも多くの方がウィニコットとピグルに出会えますように。

I'm too shy.で始まった二人の関係が、その言葉の意味が理解され、共有されるまでの時間が、私たちのなかにいる子どもの部分も温めてくれるかもしれません。

お時間のあるときに。
https://aminooffice.com/2020/08/13/『ピグル』https://aminooffice.com/2022/06/19/ピグル1965年6月16日/
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