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岡本亜美のオフィス  精神分析・心理療法 @東京都新宿区西新宿(初台)モバイル

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翻訳で関わった本

『短期力動療法入門』(金剛出版,2014年)

2021年GWにこの本に関するイベントを行いました。
当日のテキストは
ソロモン他『短期力動療法入門』妙木浩之、飯島典子監訳(金剛出版,2014)
妙木 浩之『初回面接入門―心理力動フォーミュレーション』(2010,岩崎学術出版社)
でした。

ここでは『短期力動療法入門』(金剛出版,2014年)についてご紹介したいと思います。
この本を訳したのは、精神分析家、妙木浩之先生主催の短期力動療法研究会のメンバーです。私もその一人として翻訳に参加させていただきました。この本の原題は
Short Term Therapy for Long Term Changeで「力動」という単語は入っていません。

精神分析は長期間を必要としますが、長期の精神分析と同等の効果を短期、あるいは時間制限short-term,brief,time-limitedでもたらすために開発された技法に関する本がこれです。

この技法は初回面接、力動的フォーミュレーションを重視しています。
妙木先生はご著書『初回面接入門ー心理力動フォーミュレーション』の序章で「どんな臨床場面でも、治療資源にアクセスできない事例が多くあるのは確かですし、その場でできる限りのものを提供しようとするのが、臨床家の仕事です。本書では、患者のもつ資源とニードにどのようにセラピストが応えてくのか、その体系的な方法についても考えてみたい」と書いておられます。

短期力動精神療法は治療者が準備できる資源のひとつです。
また、私のような精神分析を専門とする者にとって短期力動療法は、週一回の設定での心理療法を見直したり、精神分析を再考するときの鏡としても機能してくれます。

短期力動療法に関して、もし英語で読むなら
Mastering Intensive Short-Term Dynamic Psychotherapy: A Roadmap to the Unconscious
 Robert J. Neborsky Josette Ten Have-De Labije
もお勧めですが、ここでは邦訳されたこちらの本を取り上げます。

読者の皆さんは『短期力動療法入門』を最初から読む前に「解説:あとがきに代えて」を先にお読みいただくのもよいかもしれません。短期力動療法の概論、技法、歴史、これからについて簡潔にまとめられています。

それまで「日本にはシフニフォスSifneosの本やマンMann(喪失、分離の問題に焦点)の短期力動、時間制限療法(セッション数は週一回×12回)は紹介されていたが、今から見れば、そのどちらもかなり特異な文脈の中で生み出されて」いたそうです。これらの技法は70年代前半の実践をもとに生まれたものだったようですが、本書『短期力動療法入門』にはその後の1970年代後半の発展について書かれており、いまや日本でも有名なEMDRの登場についても創始者Francine Shapiro自身の文章で読むことができます(第5章)。

本書の章立ては以下の通りです。
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第1章 短期心理療法の挑戦 ロバート・ネボルスキー and マリオン・ソロモン
第2章 Davanlooによるインテンシヴな短期力動心理療法 ロバート・ネボルスキー
(誤記:p35の最後とp56の最後のやりとりはTとPが逆です。)
第3章 短期力動心理療法における情動恐怖症の脱感作  Leigh McCullough
(STARP:Short-Term Anxiety-Regulating Psychotherapy)
第4章 共感促進的セラピー Michael Alpert
(AET:Accelerated Empathic Therapy)
第5章 トラウマと適応的情報処理のプロセス:EMDRの力動的,行動的接点 Francine Shapiro
(EMDR:Eye Movement Desensitization and Reprocessing)
第6章 共謀関係に陥った夫婦の行き詰まりを打開する Marion F.Solomon
第7章 アタッチメントの絆と親密さ:愛の基本的な刷り込みは変容可能か? Robert J.Neborsky and Marion F.Solomon
(ABーISTDP:Attachment-Based Intensive Short-Term Dynamic Psychotherapy)
第8章 今後の展望 David Malan

解説:あとがきに代えて(妙木浩之・飯島典子)
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序文で、Lewis L.Juddは「本書はつまるところ、実現可能なかぎり短期間のうちに心理療法の効果を高めるために発展してきた理論と方法について述べている。そのため、精神療法の研究者、実践家、訓練生、学生に広く勧めたいことが多く書かれている。」とこの本を紹介しています。

「アート」から「科学」へといわれることがありますが、私は「アートとしての精神分析」というようなアートと科学を二分する表現には少し抵抗があります。科学であり、アートである、というのはフロイト自身が維持し続けた姿勢でもあります。フロイトの精神分析から派生したこの短期力動療法は精神分析のみならず他の技法との交差点になる可能性を秘めた技法でもあります。実際、妙木先生たち編集の『心理療法の交差点2』において短期力動療法、ユング派心理療法、スキーマ療法、ブリーフセラピーが取り上げられています。

さて、2021年GWのイベントのきっかけは私がCBTセミナーに出て関心を強め、その講師のおひとりだった坂田さんが『短期力動療法入門』に関心を持ってくださったことでした。そして坂田さんが昨年から本書についてT
witterでも呟いてくださったことで私は再びこの技法と出会うことができました。本書では力動的な治療法と認知行動療法の間に境界線を引いているようですが(p14)現代の私たちはどうでしょうか。力動的な治療も認知行動療法も時代と社会に合わせて少しずつそのあり方を変えています。当日は坂田さんが特定の技法に偏らない、場に開かれた話題提供をしてくださるところから始まり、皆さんの切実な想いも共有でき、特定の技法としてというより、患者のための治療資源の可能性を知るという意味でも大変有意義な時間を持つことができました。当日の様子はブログに書きましたのでよろしければご覧ください。


さて、短期力動療法の広がりは、この本の著者、Habib DavanlooとDavid Malan(英国出身,2020年12月、98歳で亡くなったそうです)の出会いによって始まりました。
本書の「著者紹介」(p221)にそれぞれの著者については詳しく書いてありますが、ここでも少しおさらいしておきましょう。

IS-TDP(Intensive short-term dynamic psychotherapy)の立役者Davanlooは天才的な治療者でその真似をするのは難しいと言われていたそうです。しかし共同研究者であるMalanによる詳細なアウトカム研究に支えられ、さらにDavanlooに20年以上の指導を受けたRobert J.Neborsky(サンディエゴ出身の医学博士、愛着ベースのAB-ISTDP)らがこの技法を洗練させ、トレーニングの形態を発展させながら現在に至っています。

Davanlooの技法については、第2章でRobert J. Neborskyが紹介してくれています。

またDavanlooの直接的な指導は受けていませんが、第1章、第6章、第7章を書いたMarion F.Solomon博士(カップルセラピーの論文多数)とMathew F.SolomonはLifespan Learning Instituteを設立し、それらを支援してきました。

先にあげたDavid Malanは短期力動療法の展開において欠かすことのできない人であり、「マランの三角形」と呼ばれる図式はアセスメントの要となっています。彼は、AlexanderとFrenchによる知見にエヴィデンスを持たせ、精神分析に対する短期力動療法の優位性(とまでは言わないかも)を明らかにしました。
「マランの三角形」はEzrielに起源を持つ「葛藤の三角形」およびMenningerの「洞察の三角形」に起源を持つ「人の三角形」を標準化したものです。この三角形はとても有用性があり、本書の著者たちもお馴染みのものとして自在に使っていることがわかります。

第3章はAffect Phobia TherapyのLeigh McCullough Vaillantは認知的、行動的モデルで訓練を受けており情動恐怖症の系統的脱感作について書いています。この章にも引用されているChanging Character: Short Term Anxiety-Regulating Psychotherapy が主著です。

第4章共感促進的セラピー(AET)の著者、Michael Alpertの仕事はハインツ・コフート(Heinz Kohut)を起点にしています。コフートの自己ー自己対象という関係性を特徴づけるふたつの転移の様相、照らし返しreflecringを引き出す誇大自己grandiose selfと、弱さに対して尊大さで結びつく内在化された親イマーゴなどに特徴づけられる自己心理学アプローチをAlpertは応用して共感促進的セラピー(AET:Accelerated Empathic Therapy)を開発しました。AETはIS-TDPとは異なり「挑戦と圧力」を避け、その代わりに、患者と治療者の見方の違いを重視する、とこの章には書かれています。

そして第5章「トラウマと適応的情報処理のプロセス:EMDRの力動的,行動的接点」の著者 、Francine Shapiroは日本でもお馴染みでしょうか。シャピロ(アメリカ)は1989年にEMDRを発表しました。きっかけは1987年の散歩中の体験だったというエピソードは有名です。やなり創始者の話を聞ける(読める)のは貴重です。この「EMDR:眼球運動による脱感作と再処理法」は、PTSD(心的外傷後ストレス障害)に対して、エビデンスのある心理療法として日本でも用いられています(日本EMDR学会webサイトから引用)。この章は情緒的な再処理について述べられており、EMDRのコンパクトな紹介にもなっています。

第6章は第1章、第7章の著者でもあるMarion F.Solomonによる「共謀関係に陥った夫婦の行き詰まりを打開する」です。Marionは特定の理論モデルよりそれらに共通する原理を探索してきた人ですが、DavanlooのIS-TDPがカップルに対して治療効果があることを認め、この章はその成果のひとつといえるでしょう。
この章でも冒頭にコフートが引用されているようにADP(accelerated dynamic psychotherapy)モデルのひとつと言えます。カップルセラピーでの鑑別診断の助けとなる「関係性を理解するための診断的図式」の表はとても参考になります。


第7章「アタッチメントの絆と親密さ:愛の基本的な刷り込みは変容可能か? 」は、Robert J.NeborskyとMarion F.Solomonによるものです。この本の著者たちは「早期のトラウマが生涯にわたる情緒の遮断の原因となりうる」「傷ついたアタッチメントの絆が治癒されることによって情緒的な親密さの能力を増進させることが、治療的な努力の中核をなす」と考えています。治療関係は、情緒の遮断をアセスメントしてワークスルーし、より豊かな親密さの能力を得るために活用されます。自由、思いやり、共感、これらは全て連動しています。

短期力動療法は、この本の著者によるものだけでなく様々な立場から広がりを見せています。例えばOshimoのIEDPIntensive the model of Experiential-Dynamic Psychotherapy)や ダイアナ・フォーシャのAEDP(加速化体験力動療法:Accelerated Experiential Dynamic Psychotherapy)などがそれにあたります。これらの技法はセッションを録画し、スーパーヴィジョンもそれをみながらおこなわれます。細やかな観察と調律が求められる技法ならではのトレーニング方法といえるでしょう。


さて、Davanlooの技法についても少し触れます。彼は無意識的治療同盟を確立するためにアセスメントのプロセスで無意識の解除の中心力動的シークエンスthe central dynamic sequence of unlocking the unconsciousと呼ばれる介入を用いました(p26、27参照)。
そこでの主な技法は「抵抗解除」と「体験促進」です。
それは「いかに早く患者の防衛を緩め、真の感情体験をもたらすかという技法であり、このプロセス促進が、短期力動療法の要」になります。(『短期力動療法入門』)
アセスメントでは「問題をある程度限局化できること、改善や動機づけが可能なこと、無意識の素材や感情体験のインパクトに対する耐性の程度(過度な混乱をきたさない)」(『短期力動療法入門』より)などを見ていきます。

→初回面接、アセスメントについてはこちらもご参考までに。


私は精神分析家候補生ですが、ですが、というより訓練を受けているからこそ、精神分析がどれだけお互いのエネルギーを必要とするかを身に染みています。
精神分析を体験する前からそれは推測できていましたので力動的な心理療法をするとしても短期でできるならお互いにその方がいい、と思って臨床に工夫を凝らしてきました。
そして、実際に訓練に入り、精神分析の特殊性は想像以上だということを知りました。
精神分析はお互いのこころをフルに使いあうものなのでお互いに相当のエネルギーがいります。「こころを使う」というのは単に自分の気持ちに意識的に気づくというものではありません。それはタブーとされているような人間の生の部分にフルに触れていくことであり、自分の無意識に翻弄されながらも生活を維持することです。こころはいつでも壊れる可能性を持っています。精神分析は異常と正常の間、意識と無意識の間でギリギリの体験を扱っています。したがって治療者が使う注意力も精神分析ならではの質を持っています。
だからこそ精神分析の治療者になるのであれば訓練が必須で、まずは自分が十分にそのこころの動きに耐えられるようになる必要があります。やってみなくてはわからない、というのはどの治療も同じですが、精神分析を受けることは他の心理療法とは異なるかなり特殊な体験となると思います。

短期力動療法はその精神分析を基盤として生まれました。しかし、その展開のプロセスにおいて、それは明らかに精神分析とは異なるものになりました。
まず、設定は対面で、自由連想法は使いません。その違いは、フロイトの『フロイト技法論集』を並べて検討してみるとわかりやすいかと思います。
そして、先ほども書きましたが、技法は「抵抗解除」と「体験促進」です。これも精神分析とはかなり異なる技法です。

ISTDPのセミナーなどを見てみると、Davanlooの抵抗に関するメタサイコロジーやマランが考案した三角形、head-on-collision with resistance(抵抗との正面衝突)の技法などを学べる内容になっています。
今回の第2章Davanlooによるインテンシヴな短期力動心理療法がそれにあたります。

たとえば2021年6月にAllan Abbassが行ったオンラインセミナーの案内も参考になるでしょうか。
そこで学べる内容は以下です。
Davanloo’s Metapsychology of Resistance
Assessing and working with barriers to engagement
Determining and working with the front of the resistance
Psychodiagnostic assessment to determine degree and type of resistance
Nature and timing of interventions, including pressure, challenge, and head-on-collision with resistance
Partial and Major Unlocking of the Unconscious
Working with the mobilized unconscious


割とシンプルに見えませんか。
今回のテキストの症例をお読みいただいてもわかるように短期力動療法は、防衛解除に焦点化しアクティブで促進的に面接を進めていく技法です。とてもシンプルでvividな方法ですが戦略的なので、言葉の使用についてもある種の型を自分に十分になじませておくことが必要そうです。
言葉の使用についてはこれも妙木浩之先生の本をお勧めします。私が一番お勧めなのは『精神分析における言葉の活用』という本です。

このゆとりなき時代にこの技法を身につけておくことは、精神分析という治療文化が廃れないためにも必要なことだと私は思っています。
よろしければご一読を。

参照:
IEDTA:International Experiential Dynamic Therapy Association
この本の著者たちも紹介されています。
各技法はこちら。STDPもこのタイプのひとつです。

第8章今後の展望(David Malan)で紹介されている本。
タヴィストッククリニック:BalintとMalan
A Study of Brief Psychotherapy
Malan, D. H. 1963
マランを後押ししたバリントのことが書かれています。
バリントは医療と心理療法をつなぐ重要な役割を果たした精神分析家です。

『バリント入門』より引用
「一九五五年には、バリントは短期焦点心理療法を発展させるために、タヴィストック・クリニックとキャッセル病院出身の分析家たちとともに短期焦点心理療法ワークショップを立ち上げた。」
「…アセスメントは、最初にアセスメントをおこなった二人の担当者の報告書によって進められる。その報告書はワークショップで議論され、治療計画が策定される。このことを通じて、差し迫っているように思われ、それゆえに短期の作業に手早く導入することができそうな葛藤の焦点を配置したのだった。」
「患者の歩調にあわせて情動的な構造がゆっくりと展開していくことが許される分析とは対照的に、短期療法の目標は、グループのメンバーがよく言うように、「素早く入り込み、深いレベルで作業し、すぐに切り上げること」であった。」
「そのためには、開始の時点から、はっきりと意識された行動計画を組み立てる必要があった。治療者は、無意識の構造を見抜くことができるように、分析に相当精通していることが要求された。」←初回重要。

Theory and Practice of Experiential Dynamic Psychotherapy
ByFerruccio Osimo, Mark J. Stein
この本は、マランに対するインタビューの章もあって、短期力動療法が周りにどう受け入れられたか(いかに受けいられるのに苦労したか)などがわかって面白いです。

著者の一人フェルッチョ・オージモは『アタッチメントと親子関係 ボウルビィの臨床セミナー』(2021、金剛出版)の二例目のケース提供者として登場します。また、同じ本に「体験ー力動心理療法:アタッチメント理論の治療応用」131頁ー181頁という事例付きの論考を書いています。ここにでてくる「性格ホログラム」についてもTheory and Practice of Experiential Dynamic Psychotherapyで詳しく知ることができます。

マランはこちらも。
Individual Psychotherapy and the Science of Psychodynamics, 2Ed  邦訳は『心理療法の臨床と科学(誠信書房)ですが品切れ・重版未定。

Davanlooの論文集 Intensive Short-Term Dynamic Psychotherapy: Selected Papers of Habib Davanloo, M.D.




『ピグル ある少女の精神分析的治療の記録』

ピグル ある少女の精神分析的治療の記録』
ドナルド・W・ウィニコット著、妙木浩之監訳
私も仲間たちと共に翻訳に参加させていただきました。
まだ開業していなかった頃の所属になっていてなんだか懐かしいです。

2021年、私のオフィスで3人の仲間と共に再びこれを読み始め、ピグルとウィニコットとも再会しました。
コロナ禍で換気、マスクを必要とする状況で1パラグラフずつ順番に音読し、1セッションの間、あるいは次のセッションまでの間に変化しつづける二人の関係をみんなで想像しながら読み進めています。
この治療はロンドンで行われており、もちろん日本とは天候も環境も言語も異なりますが、ウィニコットとピグルの約束の日に近い日程で私たちも集まって読んでいます。
たとえば7月7日、6回目のコンサルテーションを読んだあとの私の報告はこちら
こうやって毎回短い記録をとるようにしています。

精神分析において、記録をとる、というのはそれに関して一つのシンポジウムが組まれるほど多様な意味を含んでいます。私もこういう文章はさらさら書けますが、記録にはとても時間がかかります。セッションと同じで、患者さんと共にする作業なのでいろんな気持ちになってしまうからかもしれません。もちろんそれをある程度相対化するために「書く」ということをするわけで、ウィニコットもそのセッションでのピグルの様子についてあとから「これはこういう意味だろう」ということを付け加えています。

ウィニコットはセッション中もずっと書いていたようですね、ピグルの目から見ると。実際はわかりません。読んでいると、この分量ならあとからでも書けるかな、とか、書きながらこの観察は難しいのではないか、とか思いますが、ピグル、つまりガブリエルがそう感じていたということが何より大切なのでしょう。

翻訳は大変苦労しました。毎週だったかな、仕事後に上智大学の吉村聡さんの研究室に皆で集まり持ち寄った下訳を検討する作業を地道に行いました。一回の作業で進む分量はわずかなものでしが、この年齢の女の子の言動を想像するのはとても楽しい作業でした。ウィニコット先生(時折「ウィニコットさん」)とピグルの交流、ウィニコットとピグルの両親とのやりとりには治療者として驚かされたり、気づかされたりすることも多くありました。

『ピグル』はすでに以前翻訳が出ており、私はそれを最初の職場で読んだことがあるのですが、当時はその翻訳がどうかなんていうことはまるで考えずに興味深く読んでいました。実際、この『ピグル』、新訳が待ち望まれていたとはいえ、私たちは翻訳の過程でそれを参照させていただくことも多くありました。他人の記録をしかも母国語ではないものを日本語にするのは
大変な困難を伴います。ましてやウィニコットはレトリックの達人でもあります。

でも今思えば翻訳期間中に色々あったどんな出来事も楽しかったです。著者としてのウィニコットと治療者としてのウィニコットに同一化し、「ピグル」と呼ばれた少女、ガブリエルの成長を共にできた日々は今も私の大切な思い出です。

精神分析的臨床を積み重ねてきた今、ウィニコットの書物はフロイトと同じくらいよんできました。なので当時よりは随分ウィニコットと近しくなれたかなと思います。『ピグル』を読むたびにそんな気がしてしまいます。その『ピグル』に関連したことを以前、ブログに書いたのであげておきます。
これからも多くの方がウィニコットとピグルに出会えますように。

I'm too shy.で始まった二人の関係が、その言葉の意味が理解され、共有されるまでの時間が、私たちのなかにいる子どもの部分も温めてくれるかもしれません。

お時間のあるときに。
https://aminooffice.com/2020/08/13/『ピグル』/
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