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岡本亜美のオフィス  精神分析・心理療法・カウンセリング @東京都新宿区西新宿(初台)モバイル

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初回面接、アセスメント

初回面接、アセスメント

初回面接(インテーク)では、それまで長い時間をかけて複雑に絡まった糸を引くようにお話を伺います。
あっちこっちいじって余計に絡まってしまわないように、
患者あるいはクライアントのニードを汲み取っていきたいものです。


日本精神分析協会の妙木浩之先生は『初回面接入門ー心理力動フォーミュレーション』の序章で「どんな臨床場面でも、治療資源にアクセスできない事例が多くあるのは確かですし、その場でできる限りのものを提供しようとするのが、臨床家の仕事です。本書では、患者のもつ資源とニードにどのようにセラピストが応えてくのか、その体系的な方法についても考えてみたい」と書いておられます。

そして序章で、ある女性の事例を比較的詳細に書かれています。みなさんならこの女性のことをどのように考えるでしょうか。妙木先生はありそうな答えをいくつかあげたあと「いったん進行してしまった時間は逆戻りできません。そのときに、自分の在り処、根拠、居場所が問われることになります。」「この文脈全体は、心理療法という、彼女の人生のメッセージである病気の意味を理解する道程の、出発点なのです」といいます。

ウィニコットは「いること being」の重要性を説きました。それは「することdoing」と対比されるものです。
治療においても治療者は抱える環境として安心できる文脈(5W1Hのようなもの)を提供することが重要になります。

治療者がコミュニケーションを考えるときの発想の順番はこうです。 P11
①文脈(談話)→②場(副詞句)→③関係→④対象(主体)
「全体は部分の総和以上のもの」(アーサー・ケストラー)であり、「いつも全体的な状況、副詞的な認識を忘れないようにすることが、心理療法のような人間関係を考えるうえでは重要なのです。」

一方で「安心感は重要ですが、それを求めてこだわると、自分がひとりでいられなく」なります。なぜなら、私たちの心の傾向、つまり物や対象があるとそれにしがみつきやすい心性は、かえって心の居場所を狭める可能性があるからです」P12

患者さんが自分の傷つきやすいこころと出会いながら、それらと出会える自分に可能性を見出せるような、そんな場所として治療空間が機能できるかどうか、こちらがもつ限界を見据えつつ、患者さんのニードは何か、それに対して今ここでできることは何か、このようなことを考え続ける上で、初回面接という出会いは特に重要なモーメントとなります。

自分にとって本当に必要なもの、欲しているものというのは大抵事後的にわかるもので、多くの人は様々な方法で自分の居場所を探し続けています。引っ越し、転職、恋愛を何度も繰り返す人もいるでしょう。自分の部屋にこもって特定の人とだけ関係を築く場合もあれば、オンラインの世界を居場所としている方もいるでしょう。
そして、そうすることで安定を得られる方もいれば、なんとなく「このままではいられない」と治療を求める方もおられるでしょう。

私たち専門家は患者さんの病理の部分と共謀するのではなく、健康な部分に働きかけたいと願っています。そのためにトレーニングを積んでいます。
ニードをアセスメントするというのは、患者さんが意識的に欲しがっている何かを即座に提供することではありません。

無意識を想定する精神分析でなくても「人には防衛が働いているし、自分自身が自分のことを完全に把握しているわけではないし、他人に知らせたくないこともたくさんある、抵抗がある」(同書、p99)ということは共通理解でしょう。

また、「性欲、嫉妬や熱情的な狂気、羨望といった内的欲求、感情は、本来だれもがもっているはずなのに、当人は人に話すとおかしいと思ってしまう、自分がコントロールできていないと感じてしまいます。私たちはこうした部分に人から触れられると、かなり原始的な反応をしてしまうことが多いものです。」(同書、p100)

タブーを構成しやすい「生物としての生の部分」と社会的な存在としての自分の間で衝動と抑圧を揺れ動くのが人間であり、初回面接では「抵抗=防衛」の取り扱いがとても大切になります。

私は精神分析をベースに力動的アプローチを用いてるので、妙木先生の『初回面接入門ー心理力動フォーミュレーション』に書かれていることに納得しますし、こうして言語化すればいいのかと思いながら、自分の臨床を振り返り、若いみなさんに教えたりしています。ここでも私が書いていることのベースになっているのは精神分析ですが、他の技法を専門とする場合は最後の方にあげた基本文献の方がどの技法にも通じる事柄が書いてあるので参考になるかもしれません。

さて、『初回面接入門ー心理力動フォーミュレーション』第5章で紹介されるマラン(短期力動療法)の三角形を知っておくことは有用です。別の場所でもご説明しますが、簡単にいうとこれは、①本当の感情・情動(X)②Xに対する不安(A)③XとAに対する防衛(D)という三点を持つ三角形で、力動フォーミュレーションの道具立てのひとつです。
どういうことかというと、行動には、必ずA(不安)とX(本当の感情・情動)が関わっており、それが表に出るときにD(防衛)が組織される、つまり、本当の感情・情動(X)は生々しく、それを衝動といいかえることもでき、それらを実現させるには不安(A)を伴うのでD(防衛)が働くようになっていると考えるということです。

この三角形について深く考えるとき、やはりフロイトの技法論は必読であることがわかります。短期力動療法は精神分析をベースに生まれたものですが、自由連想という基本原則を取らないなどいくつかの違いによって、精神分析とは異なるものになりました。技法論に遡れば、より詳細に精神分析と短期力動療法との分かれ目を確認することができ、治療過程の違いも説明できると思いますが、それもまた別の場所に書きたいと思います。

なにはともあれ、私たちが患者さんの話を聞きながら考えているのは、目の前の患者さんが現在の状態にどんなふうに困っているのか、あるいは困っていないのか、この方が長期的にみて健康であるために必要なことは何か、それはここで応えていけるものなのかというようなことではないでしょうか。


ちなみに患者のニードに対応した治療選択と技法については『初回面接入門 心理力動フォーミュレーション』(妙木浩之著 岩崎学術出版社)P92「図4-3 患者のニードと提供される型」が参考になります。

縦軸は短期⇆長期、つまり提供される心理療法の頻度や時間に対するニード、横軸は葛藤解決型⇆症状解消型、これは患者が持っているニード、心理療法の技法に対する期待に左右されます。

たとえば、より少ない頻度で、精神分析と同様の効果が得られるように考案された短期力動療法は短期(⇆長期)かつ葛藤解決型(⇆症状解消型)の治療技法に分類されています。認知行動療法は縦軸は「短期」、横軸は「症状解消型」に分類されます。 

短期力動療法についてはこちらの本もご参照ください。

私のオフィスで実施している、インテーク、初回面接から契約に至るまでの流れを丁寧に検討するための事例検討グループで使用するテキストも以下にご紹介します。
これらは、どの技法を選択するにせよ、そこに共通する事柄が書かれた入門書です。

《参考文献》
The First Interview: Fourth Edition by James Morrison
https://www.karnacbooks.com/product/the-first-interview-fourth-edition/40355/

心理療法入門:初心者のためのガイド(J.S.ザロら)
方法としての面接―臨床家のために (土居 健郎)
精神科における予診・初診・初期治療( 笠原 嘉)
精神科診断面接のコツ(神田橋條治)

精神分析的なコンサルテーション
精神分析的心理療法におけるコンサルテーション面接』金剛出版

Balsam, R. M., & Balsam, A. (1974).
Becoming a psychotherapist: A clinical primer.

L, Bellak&L,Small(1965).
Emergency Psychotherapy and Brief Psychotherapy


子どもの治療面接ーウィニコット
1971 Therapeutic Consultations in Child Psychiatry
『新版 子どもの治療相談面接』2011

1971 Playing:A Theoretical-Statement
改訳 遊ぶことと現実
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